見上げてごらん夜の星を 今宵エブラーナ城にて。sideエジリディ名前がナイショの男たち

2019年02月03日

クルーヤの秘密の魔法

ふふふ。いつも頑張っている君に、私のとっておきの"夢の魔法"を見せよう。
では竜騎士カインの所に、クルーヤがぁ~~~
くる-ーーーーーーーー!!いい夢見るのだぞ。おやすみ坊や……


ある晴れた日の午後。ここバロン城では一人の男がぼんやりした顔で、
部屋の開けた窓から景色を見てぼやいていた。

『こんな日に仕事なんてやってられん。あー今日は仕事じゃなかったらな、
仕事じゃなかったら…そうだ外に行こう!森林公園がいい。雲一つない青い空、
新緑と鳥のさえずりと川のせせらぎ、癒しの空間だ。バスケットに本と冷えたワイン。
好きな食べ物にオツヤはフルーツサンドイッチと。とっておきの紅茶に、
ハンモックも忘れずにだ。そして誰にも邪魔されない、自分だけの静かな時間。
読みかけの小説を見て、食べて飲んで眠くなったら寝ると。それいいな…いいぞ…
ふふふふ。っておい、現実逃避するの何十回目だ!どうした俺!』

部屋で一人ぼやいていた男は、赤き翼の部隊長カイン。
オツヤはオヤツの事で、そうバロンの名門貴族は子供の頃から呼ぶ。…呼ぶのは彼だけ。

彼が現実逃避したい理由。兵士の訓練に事務仕事に、世界の復興支援やら、
いろいろとエトセトラーーー忙しい毎日を送っている。
今春バロンに咲いた桜は、ゆっくり見ぬ間に風に散り緑葉に。毎年恒例・花見の宴もできなかった。なので合間に違う事を考えたりして、気を紛らわせている。

『おい、カインいるか?僕だよ。入るぞ』入ってきたのは国王セシル。

もともと国王は色白の美男だが、近くで見ると顔色が悪い。こちらもお疲れの様子。
『国王直々に何の用だ?誰にも頼めない事だろ…』カインは睨みながら言う。
『流石、そのとおーり。困った事態が起きているのさ』青白い顔で答えるセシル。

幼い頃から付き合いの長い国王や王妃頼んでくる用件は、いつも嫌な予感がする。

今年の新年会に、4月の「新人さん、いらっしゃーい会」と称した城の宴会で、セシルとカイン2人の聖騎士コンビ「あてまか~ず」による、歌と踊りありのコントをやった。城内は大盛り上がりで拍手の嵐。

3月のおつかれさん会では、特別ゲストにエブラーナ国王エッジも参加。エッジと「あてまか~ず」と一緒に、3人トリオ「エ・カ・セ」の即興漫才を披露して、人々からは大喝采の大好評。

カインはあんな事こんな事を頼まれ、何故自分だ?と溜め息ばかり。セシル・ローザ夫妻と、息子セオドア、親代わりのシドの頼みは断れない。自分を家族同然に慕い慈しむ、故郷バロンの大切な人たちに。
つい聞いて引き受ける所は、自分は人が良いなと思うが、過去への罪滅ぼしもある。
セシルよ、今度は何を頼むのか?早く話せと椅子に座り待ち構えていると、
『お前さ、前に僕とローザが話していた事…どう考えている?』真剣顔のセシルが問う。

ある日のセシル達との昼食後//////

『最近、しつこく大臣達に聞かれるんだ。カイン殿はいつまで独り身でいる?結婚しないのか?もしや女嫌いで同性が好みなのか?訳ありでも娘との見合いを申込みたいとさ。苦いから1個入れようっと』
『人を言いたい放題して、また見合いの話か…だが断る。セシル俺にも入れろ苦いばかりだ』

『ねえ...あなた達、コーヒーに砂糖をどれだけ入れるの?どんだけ!!』ローザが夫とカインのやり取りに驚く。二人の男は甘~い角砂糖を、10個以上も入れていたのだから。
『もう砂糖湯です…』見ていたセオドアも口を空け茫然。『えっ、この飲み物は何処がいいのかい?』『フッ、この俺のグルメで繊細な舌に合わんな』ローザは中年男達の発言に、無表情で怒りの炎を出した。そんな母にいち早く気がついたセオドアが、青ざめガタガタ震える。

『父さんとカインさん、そんな事言わないで下さい!ヒィ~母さんが怒った!』セシル・カイン『!』
『何て言ったの…?コーヒー飲みたいって言うから、ダムシアンから取り寄せたのよ…そんな事を言うなら、あなた達に飲ませるコーヒーは無い!!』ローザは強く拳を握りしめ、げんこつをゴツン!ゴツン!中年男達はたんこぶを作り倒れた。
ローザ様の機嫌がなおるまで、しばらくお待ちください…


カインが多くの見合いを断る理由は、彼の地位と名声に群がる者達から、権力闘争に利用されたくなかった。国内の混乱と争いは避けたい、自分が原因で誰かが悲しむのは見たくない、もう懲り懲りだ。
それは表向きの理由で、自分の恋愛事に怖くて躊躇している。聖竜騎士となっても、世界で二人目のパラディンと呼ばれても。この悩みを聞いた誰かは、「いい大人」が何だと苦笑するだろう。

かつて恋していたローザへの思慕が消えるのに、十数年もかかった自分。今のセシルとローザと自分は、幼馴染であり大切な友であり、「独身の兄を心配する弟・妹夫婦」のような関係にもなっていた。

若い頃セシルを愛するローザを忘れようとして、好きでもない女と関係を持っても、心の隙間は埋らず。一層深く暗い穴が続くばかりだった。この先、自分が誰かを愛する事が出来るのか?自分という男を愛する女性は表れるのか?考えられない。出した結論は、もう俺は誰も愛さない方がいいのだと。

でも…あの少女ポロムは、16も年下の娘はいつも会うたびに、見ていて愉快で可愛くて飽きない。ミシディアに行くのが密かな楽しみにしている。ポロムには失礼だが会って話をすると、ついからかってしまう。彼女の反応が可笑しくて、こらえきれず大声で笑っていた。陽の様に温かく優しいポロムが気になって。

『あーそうだわ!昨日エブラーナに行って、エッジとリディアから良いこと聞いたのよ~ふふふ知りたい?』ローザの話が気になり、耳を傾けるダブル中年男と一人の少年。

エブラーナ国王夫妻によると、ミシディアの黒魔導士・パロムが言うには、双子の姉ポロムは恋をしている。相手はバロンの聖竜騎士カイン、彼がミシディアに来る日はそわそわして落ち着き無く、お洒落に着飾り綺麗に化粧をしている。カインを見る顔が違う!何度もあったから間違いない!あのおっさんの何処がいいか謎だ!と。エッジとリディアは、『やっぱりポロムの好きな男は、カインだったか~可愛い子に好かれるなんてラッキーね』と話し、ローザと盛り上がった。3人はパロムの話に確信したという。

『本当?いや~カインよかったな』『僕も父さんと同じ意見です、ポロムさんは素敵なお姉さんです!』セシル・セオドア親子は喜びし、話を持ち出したローザは『そうでしょう?私が男性なら即お付き合いするわね、カインに春が来てくれて嬉しいわ。相手がポロムで大歓迎よ~』涙ぐみながら言う。『ちょ、ちよっと待て、相手は16も下だ。そんな事は有り得んな…これはドッキリか?お前達は俺を騙してるのだろう?きっとそうだ!』カインはローザから聞いた話が信じられなかった。
そんな彼に一家は怒る『は...?ドッキリじゃないよ!!』『言っていい事と悪い事があります!』
『ちよっと何言うの!カインは老後の世話をセオドアにさせたいの?自分の人生よく考えなさい!!』一家の迫力に黙るカインは、床に正座して足の痺れと説教に絶えていた…

その事が事実ならポロムに話さねば。『未来ある若い女性が、俺を好きになってはいけない。君に俺は相応しくない男だ』ポロムに話すのは辛い、笑顔が似合う彼女の悲しむ顔を見ながら。

そう思い、今に至る////

『困った事態はな。見合い話にお前の返事が無いから、待てないと痺れを切らした大臣達は、仕事を放棄してしまったんだ。登城しません、職務拒否します!とさ。参ったね』セシルは溜め息をする。
『それは本当か?』カインは驚く。『ああ。でも彼らの対応は僕にまかせてくれ、ふふふ、ふふふ…』お怒りの陛下、暗黒オーラを出しながらもニコニコ笑顔。カインも機嫌が悪いと黒色オーラを出すから、聖騎士同士お会いこ。
『セシル、すまん』『お前は悪くない。僕は…僕とローザはお前には、心から好きになった女性と結ばれて欲しいと願っている。うう...だからポロムを気にかけてあげてくれないか?頼む。あの子はいい子だよ』涙と鼻水を流す泣き顔セシルから言われ、どうしたものか悩むカインだった。

セシルが部屋から去った後、一人になるなり疲れが襲う。椅子から立ち上がると体全体が重苦しく、めまいがして足元がふらつく。ソファーで休もうと歩くも、床に崩れ落ち気を失った。


『…聞こえてますか?気分はどうですか?』聞いた事のある声に反応して目を開けると、見えたは自分専用の執務室。カインはソファーに寝かされていた。
『ここは何処だ?』側に座るす人の姿を見つけ声をかける。すると『まあ、気がつきましたか?』女性の声だった。自分はこの女とどういう関係だ?恐る恐る聞いた。『お前は誰だ?モンスターが人に化けたのか』側にいる白いブラウスに、青みがかかったピンクのスカート姿の女性は笑って、『ふふふ、私はあなたの妻です。化けてませんから!もう可笑しいわ』左手の薬指にはめた指輪を見せる。

俺の妻だと?いつ結婚したのだ?夢とはいえ信じがたい。『あなたも見て下さい』女性がカインの左手を上げると、自分の薬指にも指輪がある。『これでわかりました?』女性の白い手は温かく軟らかで、ほっそりした指先は赤く塗られている。唇は桃色のルージュが艶やかに塗られ、後ろ姿だが茶色の髪を結い上げた、うなじに見とれた。顔は見えないが妻だと名乗る女が、益々気になる。
『俺はいつ結婚したのか?』カインは女性に聞くと、『忘れたんですか?もう10年以上前ですよ』何だとーー??では、ここの俺は40代半ば辺りか。ここは夢か現実か?気になるからまた聞く。『10年以上とは…もしかすると君との子供がいるのか?』女性は笑って『いますよ、このくらい』
手で人数を表した。カインは『そうなのか?ハハハ…これは賑やかだ』苦笑いし、顔の見えない女性を見る。細身ながら女性らしい曲線、スカートから覗いた白い靴を履く足は美しい。

先程のうなじといい、カインはゴクリと唾を飲み込む。この女の顔を見たい、どんな女が自分を好きになり結婚したのか?女性に『君は俺の何処がよかったのか』と聞いた。

コホン、と咳払いした女性はゆっくり話す。『ふふふ、あなたの事は昔から知っていました。無愛想であまり話さず、甲冑姿の怖いおじさんと思っていました。何を考えているか解らない、不思議な人だったけど。森で動物と話している姿は、とても綺麗で物語のプリンセスみたいでした。それから優しい方とわかって、沢山お話をしました。楽しくてお兄さんみたいで、とっても嬉しかった。いつしかあなたへの好きという気持ちが、お兄さんとしてではなく、違うものに変わり…もやもやして落ち着かなくて、時間がかかったけど。いろいろ考えて解りました、私はあなたに異性として、一人の男性に恋をしたと。』

『俺を昔から知っているだと?誰なんだ』『まあ、私を忘れたの?よく話の続きを聞いて下さいな』
話の推測からすると、彼女は年下の女性であろう。話の続きを待つ。おじさんと呼ばれガックリだ…

『あなたを好きと解ってから身内に、あの男の何処がいいのか?根暗で陰険っぽいから止めた方がいい、と言われ頭にきて口喧嘩をよくしました。でね私、そんな事は無い。素敵で優しい良い人だ!って言い続けていたら、身内も折れて密かに応援してくれました。珍しく結婚式の時に号泣したんですよ』
自分が根暗で陰険とは、そんな風に捉えられてるなんてショックである。カインがそう言われたのは今に限った訳でないが。自分が女性から「優しい良い人」なんて言われたら、実はとても嬉しい。
『あなたが気になって、頑張って話しかけたんですよ。接してみると実は無器用で繊細な人。あと寂しがり屋だなってわかったんです。でもね話しても言葉は短くて、そっけなくて、何かとからかわれてばかり。諦めた方がいいかなと思ったとき、不思議な夢を見ました。夢の中で白い光が私を励ましてくれたんです、君の真っ直ぐで一途な思いは、ちゃんと好きな相手に伝わっている。向こうは嬉しくて恥ずかしいのだよ。大丈夫、自分の気持ちに自信を持ちなさいと。それから諦めずにいたら……突然あなたから好きだと告白され、お付きあいして結婚しました。そうなって私とっても嬉しかった…愛する人と結ばれて、お嫁さんになって、大好きな人の側にいられて幸せです』話終わり、恥ずかしそうに頬を赤くする女性。

この自分が女性に告白して、付き合い結婚した。いや、夢を見ているからだ。不思議な夢の中で。

『カインさん、解りましたか?私、あなたをお慕いしています、昔も今も。それは覚えていて欲しいですわ。あなたを愛してます』正面に、ずっと見たかった女性の顔が見えた。
その女性は、カインのよく知る……の顔をしていた。気になる「彼女」の顔で。
『私を忘れないで下さいね』女性はそう言い、カインの額に口づけし優しく微笑んだ。

『君は、君って、あの、その……だったのか!』カインは驚きソファーから起き上がったが、
また急に強い眠気が押し寄せ、両のまぶたを閉じた。



カイン、カインよ…見た夢はどうだったかな?そなたの見たのは、未来の自分だ。
兄弟と同様、白魔法と黒魔法両方使う私の、とっておきの「時の魔法」だよ。
私の息子達を助けてくれて、私の愛する青き星を守ってくれてありがとう。
お礼も兼ねて、私はそなたがどうしているか気がかりなのと話したい事があり、こうして現れたのだ。

(は?俺が気がかりだと?何者だ、姿を見せろ)謎の声で気がつき、目を覚ましたカインは叫ぶ。
ふふふ、じゃあ~ミュージックショースタート!いくぜ、カモーン!!
目を開ければ、そこにいるは真っ白な空間。上から一筋の白い光がカインを照らす。
『ここはどこだ!おまえはなんだ!』カインは光に向かい怒鳴ると、なにか聞こえる。
『そなたに捧げよう、私からの人生賛歌を聞いてくれ。♪♪ルルリラ~ルルルン~♪』
男の低い艶のある、ミュージカル俳優や歌手に負けず劣らずな美声で、光から歌が聞こえた。

『♪この僕は恋愛に臆病な男なのさ~それでも僕には~愛しい人がいーるのさ、ラララー♪恋をした竜騎士は~風のようにフワフワしてるーきっと恋しい人に~会いたいのだろうーそうだね!僕の一番恋しい人よ~君が好きと伝えたい~そして君を離したくない強く抱きしめた~い♪』どこの唄の歌詞か?光が考えたのか?歌詞の内容は自分の事か?と混乱する。しかし、いい歌声だと聞き惚れていた。

『うああぁ~なんで光が歌っているんだ!?』カイン、口をポカーン。
『やぁ、始めましてでもないね。この声で私が誰かは覚えているかな?』光はカインに尋ねてきた。誰だ誰だで眉間に縦じわを寄せ、ますます混乱。よく耳を澄ませば、聞いた事のあるような...記憶をたどっていくと、ある人物が浮かんだ。その人物は……
『えっ…もしかすると、あ、あなたはあのクルーヤ殿なのですか?』カインが光に問うと、優しく答えた。『ふふ、そのとおーり!そうだよ。私は月の民クルーヤ、試練の山で我が息子セシルと、そなたに聖なる力を授けた者だ。そなたの事はいろいろ知っているぞ、私の姿を見せよう』光はカインの正面に近寄ると、人の姿になった。目の前に現れたのは予想を超えた.....自分よりも高い背の男だ。

『あの、あの、クルーヤ殿ですよね?』息子のゴルベーザに似た、筋肉隆々な背の高い男。
年齢は40代半から50代あたり、白いロープ姿の短髪で顎髭を伸ばした月の民。親友セシルの父でもあるが、穏やかな優しい顔にマッチョとは!セシルもそうだがゴルベーザといい、少年ながら力持ちなセオドアといい、月の民の血恐るべしである。カインは震えビクビクするのだった。

『おやおや、そんなに怖がらなくていいよ。おじさんの近くにおいで』クルーヤの微笑む顔が、セシルに似ている。『は、はあ…』カインは自分の過去にした事に、クルーヤが怒って罰を与えようと現れたのだと思っていた。白か黒かの魔法で?太い腕から振り下ろされる拳でパンチか?脚蹴りか?関節技か?
あなたからの罰を、俺は喜んで受けようと強く目をつぶると…そんな事はすること無く、
『君は恋をしているねー自分ではそれを認めたくないのだろ?』クルーヤはいたずらっぽく聞いてくる。

『違います!俺は恋なんてしていません。あなたの戯れ言です』カインが否定すると、クルーヤは優しい顔から一転。怖いモンスターの様な形相になった。腕組みをしたとたん空と地はゴゴゴと響き、大きく揺れ、立っているカインも揺れる。『そなた、私になんと言ったのだ?私は本当の事を言ったのだぞ!』
クルーヤは、長男の「いあつ」を出して怒る。『ひぃ~すみません…本当です』怖いが謝るカインだった。

『ああ、嫌だ嫌だ。おじさんガッカリだよ、それでも男の子か?この軟弱者!いつまで過去を引きずるのだ?ズルズル君と呼ぶぞ。あっそうそう。息子の嫁の父君から、自分の昔を思い出しますー君の恋をおじさん応援しているよとな。』息子セシルの嫁=ローザ、父君=亡き竜騎士で妻はミシディアの白魔道士だ。妻は存命してバロンの城下町で暮らしている、捕まると話が長くなるセオドアの祖母である。あの世でローザの父親と知り合うとは死後の世界もわからんと思う。

『俺をズルズル君なんて言わないで下さい。誰も好きにならない、そう決めたのです』
『まあまあ、そなたのご両親からも伝言を預かってきたぞ。聞きなさい』早くに死んだ自分の両親もだと!クルーヤはローザの父親だけでなく、父と母とも知り合うとは...恐ろしくてゾクゾク震える。『母君は...カインはやればできる子!諦めないでとな。父君は...この馬鹿者め。好きなら嘘をつくな!!男なら根性で告白だと。そなたは死んだ両親にも愛されているじゃないか。愛する資格がないだと?そんな事は口にして言っちゃあ、よくないぞ』クルーヤが口を尖らせる。

『そなたが恋をするのはダメだと、どこの誰が言ったのだ?頑なな気持ちの、そなたの思い込みではないのか?そう考えるのは終わりにしなさい。そなたは娘に愛されて良いのだよ。人生には悪い事も良き事も全て無駄では無いぞ!人は誰しも過ちはある…その事にこだわり続ければ幸せになれぬのだよ。私も青き星に来た若かりし頃はな…いろいろ人に裏切られ、人が信じられなくて荒れた生活をし、人を避けて過ごしていた。そんな生き方を変えたのが...ある女性との出会いだったのだよ。あのときの彼女は可愛かったねえーふふふ』クルーヤが照れた様に言うと、カインは彼にしては珍しくピーンときた。きっと、その女性は大切な人。
『セシルとゴルベーザの母親ですね』そう言ったカインに、クルーヤは『そうだよ』と答えた。

『セシリアと出会って、お互いに愛して。一人だった私は孤独から抜け出し暗い世界から、明るい世界へと入ったのだ。そして家族が出来て、私が死ぬまで幸せだったね。カインよ、今までの過去は変えられないが、これからの未来は変えられるのだ。後ろを振り返るな!前ばかり見るな!しっかり両の眼で今を見なさい。数奇な運命を経て試練を乗り越えた、今のそなたなら大丈夫だ。自分に誇りと自信を持ち、そなたを慕う心優しい白魔導士の娘の気持ちを受け入れるのだ。そなたは娘を愛する事ができるよ。一緒に幸せになるのだぞ、さあて、歌のクライマックスといこうか!!』
クルーヤは両腕を大きく振りながら自作自演の歌を歌う。
『♪あの日あの時、あの場所で二人は出逢わなかったらー♪いつまでも寂しがり屋の竜は一人ぼっちだったのさ~♪♪乙女は竜に愛を捧げ~♪竜も乙女に心開きー愛して愛されたのさ~カイン、そなたの事だ!♪♪君は一人ではない~友や仲間がいるだろう♪闇を切り抜けー茨の道をくぐり抜けー君は試練に打ち勝ったヒーローだ!君は今、光ある世界に立っている~愛する人の手を離さず掴み~人生を共に歩むのさ~君に幸とー栄光あれ~♪カインよ、さらばだ!!』

長男同様「いあつ」と背丈があり、次男と同じく優しい顔にガッシリ体型の、クルーヤの姿が消え周りが暗くなり、再びカインは意識を失った。また眠りに付く….

気が付いて、ゆっくり目を開けると空は薄暗くなり、夜も近い時刻になっていた。
頭の下には心地好い感触、床に倒れたはずなのに、いつの間にこんな極上の枕で寝ていたのだろう。この上質な枕は城の備品か?これは自分が買い取るかと触ると…温かくて柔らかい。『これは人間の体か?誰だ?』体を起こして振り向くと『あれ?何故、君がここにいるん...』
自分が枕だと思っていたのは、枕でなくて『え、えええ!俺は、俺は何て事をしたのだー』カイン大声で絶叫。ソファ-に座り、うたた寝をするポロム。寝ていたのは彼女の膝枕でだった。
『ん、んーあれ?私ったらいつの間に寝ていたのね』その絶叫の声で目が覚めたポロム。
『ポロム、君がなんでここにいるんだ?』大慌てで動揺のカイン。『今日はバロンとミシディアの交流会の打ち合わせで、会う約束をしてたんですよ。もしかすると忘れてました?』ポロムはムッとして言う。そう言われてカインは壁のカレンダーを見ると、今日の日付に大きく赤丸があった。『すまんな、そうだった』思い出すと数日前、セシルとローザから交流会をしたいから幹事を頼まれた(問答無用で押し付け)が、どうすればいいか困っていたらポロムに声をかけられた。『私もパロムの代わりに幹事をやる事になりました、よろしくお願いしますね』と。 忙しく急いでいたのもあり、心強い味方に『この日にバロンに来て欲しい』そう約束して赤丸までしたのだ。言われるまで忘れていたが。


『いいです。カインさんが無事でよかった…倒れていたから何かあったのかと心配しました。レビテトの魔法でソファーに横にさせましたが…顔色を見ようと近くに寄ると急に腕を引っ張られて、あの…膝枕に。困っていたら、そのまま私も眠ってしまいました。何にも無くてよかった…』ポロムの両目から涙がこぼれた。
自分を心配して、自分の為に流したポロムの涙。
お節介にわざわざ現れて、いろいろクルーヤの言った様に、怖がりだった自分はこれっきり。
少しずつ前向きに歩んで行こう。カインはクルーヤに励ましと勇気をもらった気がした。

『さて、もう夜になるな。よかったら夕食を一緒にどうだろう?膝枕の詫びもしないとな。今の話は君が嫌でなければだが』カインはポロムの顔を反らさず、ポロムの目を見ながら話した。
『まあ、そんな…嬉しいです。いいですよ、喜んでご一緒します』ポロムが自分を見つめながら、穏やかに微笑むと、つられて微笑むカインがいた。『ありがとう...ポロム』

それから、それから、この2人がどうなったかというと。
バロンとミシディアで、頻繁に相手の元を訪ねる、カインとポロムの姿を見かけるようになった。

バロン国王一家とミンウ長老は大歓迎、カインは見合いを強制されなくなって安心。
若き次の長・ポロムの双子の弟パロムは、皮肉を言いつつも二人の仲を応援する。
カインはミシディアの人々から、「ポロムの旦那様、ナイト様」と呼ばれていた。

また毎年には。暖かくなった春の桜咲く頃、緑豊かな初夏、梅雨の紫陽花が見事な時期。
暑い夏の涼し風吹く海岸、秋の美しい紅葉、冬の白い雪景色。
その場所には...手を繋ぎ道を歩きながら話をする、仲の良い2人も多く目撃された。

バロン城のカインの殺風景な執務室に、置かれるようになったのは。

子供の字で「とうさま、だいだいだいすきだよ」「とうさまみたいなつよいりゅうきしになる」
と書かれた手紙、絵や工作物が立派な額に入れられ、いくつも壁に飾られた。
暖色の小物と、机に異国で作られた花瓶。そこに四季の花が置かれた場所で、
鮮やかに咲いていた。それらをカインが大切な女性を思い、優しい顔で見つめていたという。
               

                
 


trkeko at 14:42│Comments(0)カイポロ 

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